ヒロアカ短編、SSまとめ

エンターテイナーの振舞い方(トゥワイス+Mr.コンプレス)

【回り道】【自己防衛】【自分への御褒美】(35分、1272字) 
友人と30分の制限時間で書いたもの。5分オーバー。
ヴィラアカ後ぐらいのイメージ。(2022/6/12)

思えば、回り道ばかりの人生だった。もっとまともな道はあっただろう。
それでも、落ちて、落ちて、落ちきった。その道を選んだのはわが身の可愛さゆえだろう。
まともな道に戻ろうと足掻いて、失敗して、無理だと思いたくなかったから。それに、まともな道を選んだことで称賛してくれる相手もいなかった。だから、この道を選んだのは単なる自己防衛だ。
柵にもたれ掛かりながら煙草をふかし、そんなことを考える。ふと、隣をみれば仮面を外したコンプレスが同じように柵にもたれて空を見上げていた。
「コンプレスはさ、後悔ってしたことある?」
少し、踏み込んだ質問だっただろうか。答えたくなければ答えなくていいと伝えようと口を開こうとする。けれど、それよりも先にコンプレスが口を開いた。
「それを聞くってことは、お前は後悔をしていることがあるってことだ」
コンプレスは「だろ?」と緩く口角を上げて、俺に聞き返す。相変わらず煙に巻くのが上手いやつだと思った。
「まあな。もっと違う道もあったのかもと思うこともあるな」「全然ねぇよ」
俺の返事を聞いて、コンプレスは自嘲気味に笑った。
「お前はそうかもしれないな」
「そういうってことは、お前は違うってことだ?……だろ?」
先ほどのコンプレスの言葉を真似して言うと、コンプレスはこれは一本とられたという顔をして仮面を被りなおした。
「俺は俺の意志に従って生きてきたからな。他の道なんざ、俺の道じゃないわけよ」
コンプレスは器用に柵の上に乗ると両手を大きく広げて空を掲げる。コンプレスの頭上に月が煌々と輝いていた。表情を隠した仮面にシルクハットの影が重なる。その先に大きく伸びる影が、他のものとは違う道を往くものであることを感じさせた。
”怪盗”Mr.コンプレスの姿がそこにはあった。
「憧れるな、そういうの」
「ハハ、全国指名手配犯だぜ?」
「でも、信念を突きとおしたゆえの結果だろ?俺は転がりおちただけだからな」
自嘲気味にそういうと、コンプレスは大仰に手を肩まで上げてハァ?というポーズをした。
「転がり落ちただけのやつが、トラウマ乗り越えて俺達を守るかってんだ。一緒だよ、お前も俺も。自分のために、自分に従って生きてきた結果が今だ。俺には今のお前が眩しく見えるぜ」
「俺が……?」
「ああ、そうだよ。俺は何が正しいかなんざ知らねぇが、自分の価値で生きるのが一番正しいと思ってる。ここにいるやつらは全員それが出来てる連中さ。だから、お前はお前にとって正しい道を歩んできたんだよ、自分の欲に従ってな」
ふわりと柵から降りるとコンプレスは俺の胸をステッキでコンと軽く叩いた。
「人生は一瞬一瞬が意識的であれ、無意識的であれ、自分の欲に従ったエンターテイメントさ。つまり、この一瞬一瞬が自分へのご褒美ってわけ」
コンプレスは踊るようにクルクルと回りながら、扉の方へと向かっていく。取っ手に手を掛けると、こちらを振り返った。
「一回限りの人生、楽しんでいこうぜ?」
月明りの下、貼り付けられた笑顔の仮面がやけにわざとらしく思えた。


隠して、仕舞え(Mr.コンプレス)

【夢であって欲しかった】【瓦礫の中の思い出】【隠してしまえばいいんでしょ】(28分、1112字)
友人と30分の制限時間で書いたもの。
トゥワイス死後直後ぐらいの話。(2022/6/12)

夢であって欲しかった。永遠に続くと思われた関係は一瞬にして崩れ去った。思い出されるのは軽口を叩きあったあの頃ではなく、瓦礫の中の思い出だった。
最後にトゥワイスの口にした言葉を反芻する。
「ごめん。最期まで……本当に」
聞きたかった言葉はそれではなかったというのに、その言葉が耳にこびりついて離れない。あの時、何と声を掛けてやれば良かったのだろう。トガちゃんのように「ありがとう」だろうか。それとも……。
トゥワイスの望みは知っていた。自分のようなイカレ野郎が受け入れられること、自分のようなイカレ野郎でも受け入れること。その想いは尊く、誇るべきものだった。生き方として、決して間違ってはいないものだった。
なあ、ホークス。お前もそれを感じ取っていたんじゃないのか。
やけに連合に取り入った態度を取るホークスを警戒していないわけではなかった。けれど、トゥワイスの傍にいるホークスの表情を見て、その警戒が薄れなかったといえば嘘になる。それほどまでに二人は穏やかな表情をしていた。だから、俺はトゥワイスがホークスに絆されきっていることに口出しをしなかった。あの時、俺が何か言っていれば、この結末は変わっただろうか。
いや、変わらなかっただろう。それほどまでにトゥワイスの居場所のない相手に対する姿勢は真っすぐだった。俺もそれに救われた一人だからよく分かる。分かっているだけに、言いようのない無力感が胸を打った。
やっぱり、あの時掛けるべき言葉は「ありがとう」で合っている。「ごめん」でも「仇を討ってやる」でもなく「ありがとう」だ。ヒーローから俺を助けてくれたことだけじゃない。当然のように仲間として受け入れてくれたこと、信じてくれたこと、命を投げ打ってでも助けに来てくれたこと、それほどまでに大切に想ってくれたこと、その全てに「ありがとう」と言うべきだったのだ。
崩れ去った泥を前に、俺は虚空に向かって「ありがとう」と口にした。
口にした瞬間、後悔が押し寄せる。歯を食いしばり、必死に込み上げてくるものを押しとどめた。
俺よりも先に行動したトガちゃんのように、怒りに任せて動ければどれだけ良かったことか。俺のちっぽけな心は怒りよりも保身に傾いていた。トガちゃんを援護するでもなく、危険だと口を出すことしか出来なかった。死への恐怖が俺を襲えば襲うほど、命を賭して戦ったトゥワイスの凄さを身に染みて感じた。
次は、俺の番だ。
心の中にある恐怖心を真っすぐに見つめる。隠すのは得意分野だ。
この恐怖心すら隠してしまえばいいんでしょ。
そして、俺は笑顔の仮面を被りなおした。


Happy Endの文字はその目に映らない(トゥワイス+ホークス)

【ぐちゃぐちゃの脳内】【あの時手を伸ばしていたら】【あなたにとっての「当たり前」】
友人との1時間制限で書いたもの(45分、1253字)(2022/6/13)

また、だ。
また、やっちまった。
信じて手を伸ばした相手に、また、裏切られてしまった。周囲の喧騒がヒーローとの戦いが始まったことを知らせている。そして、それは他でもない自分自身が呼び込んでしまった結果だと目の前の男が暗に告げていた。認めたくない現実と認めなければならない現実でぐちゃぐちゃの脳内から出た言葉は「どうなってんだよ」という悲痛な叫びだった。裏切ったことを否定して欲しいという思いとは裏腹にホークスは淡々と自らの思惑を俺に告げる。その冷淡さが恐ろしかった。信じたものが簡単に裏切るという事実が恐ろしかった。
「信じてあげねぇと可哀想だって思ったから――……」
あの時に見せた寂しげな笑顔すらも嘘だというのだろうか。俺を見下ろすホークスの目はどこまでも冷淡で、あの時の瞳とは似ても似つかない捕食者の目をしていた。終わってしまった人間に、救われなかった人間に、俺がしてあげられる唯一のこと。それが信じてあげることだった。誰からも信じられないことは悲しいことだと、寂しい事だと知っていたから。そして、信じてくれる仲間がいることで、どれだけ救われるか知っていたから。だから、信じてくれる「誰か」に他でもない俺がなろうと、そう思ったのに。その思いはあっさりと裏切られてしまった。
「ありがとう」
そのありがとうの響きには憐みが籠っていて、それがすでにホークスが救われている側の人間であることを知らせていた。
「あなたは運が悪かっただけだ。罪を償ってやり直そう。やり直せるように俺も手伝う。あなたは良い人だから」
運が悪かったとはどういうことだろうか。ホークスから見た俺は不幸だということだろうか。やり直すとはどういうことだろうか。今の俺は間違っているということだろうか。
分かっている。分かってはいるんだ。ホークスが俺を救いたくて、そう言葉を並べていることは。けれど、イカレちまった俺にとっては連合にいることが、幸福で、正しくて、俺が俺であるということなんだ。ここにいることが俺にとっての「当たり前」なんだ。お前にとっての「当たり前」である世界にいる俺なんて俺じゃないんだ。なあ、ホークス。その「当たり前」を押し付けることがヒーローか?いまここにいて幸せな俺にとってやり直さなければならないことってなんだ?連合が俺にとっての幸せで、生きがいで、全てなんだよ。
「俺は俺のことなんて、とっくにどうでもいいんだよ!」
その連合を脅かす存在なら、俺は絶対にお前を許さない。
「あなたと戦いたくないんだ!分倍河原!」
「そりゃてめェの都合だろ!」
俺の魂はただ、連合の幸せの為に―――


もっと早く手を伸ばせていたら、この結末は変わっていただろうか。
トゥワイスの背中からドクドクと流れる血を見つめながら、そんなことを考える。考えても仕方がないことは分かっている。手を伸ばすには遅すぎた。遅すぎたのだ。
何が速すぎる男だ。

もう、この結末は変わらない。


幸福の形(トゥワイス)

【抱きしめてくれますか?】【今にも消えてしまいそうだった】【嘘に嘘が重なる】
友人と時間制限で書いたもの(40分、1005字)(2022/06/18)

背後で倒れる自分自身の身体に自らの死を悟り、分身である自分に残された猶予があと僅かであることを知った。
身体を包むコスチュームからは泥があふれ出し、自分の身体は今にも消えてしまいそうだった。
大丈夫だ。まだ動ける。
言い聞かせるように身体を動かす。身体を保たせている神経を少しでも緩めれば、その綻びから瓦解しそうだった。
何とか視界の端に捉えたトガちゃんとコンプレスの元に駆け寄り、二人を捉えているヒーローの首筋を狙う。
頼むから早く二人を離してくれ。俺が壊れてしまう前に。俺はまだ何も二人に返せていないのだ。せめて、せめて、一度だけでも何かを返させてくれ。
頼むから、早く死んでくれ。
無我夢中でヒーローの首筋を何度も狙う。気がつけば、ヒーローは事切れていたようでドサリとその身体が地に落ちた。この姿は数分後の俺の姿だ。いや、俺はこんな風に死体を残すことなく消えるだろう。最期に、少しは役に立てただろうか。
「っしゃ!増えまくれ、トゥワイス!!」
コンプレスの言葉に答えられないことに絶望する。俺は、もう増えない。身体を保つことだけでやっとだった。
「ごめん、コンプレス。増やせない」
「何で‼」
何で、だろうな。こうなった原因に思い当たる節は沢山ある。コンクリから落とされたことだけじゃない。ホークスを信じたこと、不用意に話したこと、一度目の失敗から学ばなかったこと。裏切られて、戦って、負けて、死んだこと。全部、全部、俺のせいだ。
ごめん、ごめんな。
大切な仲間をまた傷つけてしまった。
「また、可愛い顔を傷つけちまった」
ハンカチをくれた優しいこの子まで、また傷つけてしまった。
「ハンカチ返すよ」
もう、返す機会はやってこないから。本当は君の傷を癒やすために使ってあげたかったけれど、それももう無理そうだ。
「俺……もう……増えない。ごめん、最期まで……本当に」
もう皆の役には立てない。俺は何も救えなかった。
「仁くん」
突如、優しい温もりに包まれる。また、抱きしめてくれるというのか。二度も皆を陥れた俺のことを。
「たすけてくれてありがとう」
強く強く彼女の腕の中に包まれる。もう二度と味わうことのないと思っていた、仲間からの温もりがそこにはあった。
ーーああ、幸せだ。
張り詰めていた神経に綻びが生じる。自分の身体が崩れていくのを感じた。けれど、それすら、もうどうでも良かった。
どんなに身体が崩れ落ちても、この幸福だけは形を保ち続けるだろうから。


心までは繕えない(トゥワイス×夢主)

初の夢小説です。
夢主視点 (2022/03/14 3239字)

メジャーを取り出し、彫の深い目元や高い鼻筋に沿わせて丁寧に測っていく。測られている男はくすぐったそうに口角を上げた。
「あ、顔を動かさないで下さいよ。ちゃんと測れないじゃないですか」
「だってよお、くすぐってぇんだから仕方ないだろ?」
他の人であれば多少の誤差が出ようともさほど気にしないのだが、目の前の子供のように口を尖らせて言い訳を口にする男性――分倍河原仁の場合は多少の誤差も許されない。
「裂けちゃってもいいんですか?」
多少の誤差をも許さない理由をダシに冗談交じりにそう脅すと分倍河原は「それは勘弁」と居住まいを正し、キリッとした表情を作った。
その素直な様子に子供を見るときのような微笑ましさを覚えながら採寸を続けていく。
キリキリとメジャーを引き出す音が静寂に響く。分倍河原はその様子を目だけを動かして見ていたが顔回りが終わったところで口を開いた。
「やっぱ針子さんはメジャーの扱いがうめぇなぁ」
「分倍河原さんほどではないですよ」
「いやいや、手際も正確さもピカイチだぜ。俺は要所要所の長さが分かれば後はイメージで何とかなるけど針子さんの仕事はそうはいかねぇだろ?」
「そうですね。でも、分倍河原さんと違って私にはこれしかありませんから」
そう、私にはこれしかないのだ。

個性の発現から服飾の文化は大きく発展し、3Dスキャンや3Dプリンターでの素材の出力が可能になり個性に合わせた服が当たり前の時代になってきた。しかし、その分縫製が複雑になりヒーロースーツなどの細かな調整が必要なものは最終調整を手作業で行う必要が出てくる。『無個性』であった私は両親から食べるのに困らないようにと需要が高まっており、手先の器用さを生かせる針子の仕事を進めてきた。その助言に従ってその道を歩み、無個性ながらもそれなりの生活をしてきた。
――繊維を操る個性の持ち主が現れるまでは。
その繊維使いは私の1日掛けて行う仕事をたった数分で終わらせることが出来た。出来栄えの差はない。そうなってくると私が解雇されるのは当然のことだった。
服飾関係の別の仕事場を探したけれども他にも同じような仕事に使える個性持ちが優遇され、私を採用するような場所はなかった。結局、親が危惧した食べるにも困る生活となってしまったのだ。
そして、全てが嫌になり、いっそのこと命を断ってしまおうかと橋のフェンスに足を掛けたところで変なマフラーをした丸サングラスの男に声を掛けられ、身の上を聞かれた。
変なマフラーをした男――義爛はろくにご飯すら食べれていなさそうな見た目なのに服だけは綺麗なのが気になって興味本位で声を掛けたと言っていた。自死を選ぶような人間ならば表の世界に絶望してこちらの世界に来る可能性があるとも思っていたらしい。こちらの世界は常に人材不足だからなぁと笑いながらも、ちょうど手作業でコスチュームを作れるやつを探しているところだったからラッキーだったと言っていた。義爛は衣食住を保障してくれ、仕事まで与えてくれた。
だから、義爛には感謝しているし、その手作業でのコスチュームを必要とするきっかけとなった目の前の人物にも同じぐらい感謝しているのだ。いや、感謝だけじゃない。それ以上に……

「針子さんがこれしか、っていうその能力に俺は救われてんだ。ありがとうな」
分倍河原に屈託なく笑いかけられ、顔が熱くなり心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「私の方こそ。義爛さんと分倍河原さんがいなければ私は今頃生きてないですよ」
そう言いながらデータ入力するためにパソコンの方を向いて顔を隠す。恥ずかしいという気持ちよりもこの想いが分倍河原に伝わることが怖かった。彼の気持ちは分からないが、伝わってしまえば何かしらかの形で答えようとしてくれるだろうし、きっと私にとって悪いようにはしないことは分かっていた。
それでも、怖かった。

分倍河原に恋心を抱いたのはいつ頃だっただろうか。初めのころは「受け入れてくれた敵連合のために役に立ちたい」と語る彼を素直に応援していたと思う。彼はその役に立ちたいという言葉通り、敵連合のために戦い個性を駆使していた。そして、少し破れたコスチュームと土産話を持って私の元へやってくるようになっていた。
コスチュームの採寸をするたびに増える寸法に彼の日ごろの努力を垣間見、土産話にと仲間の良いところを語る彼に人柄の良さを感じた。
それを語るときの分倍河原は敵連合の仲間の事を本当に大切に思っているのだと分かる優しい眼差しで敵連合のことが羨ましくなったぐらいだ。
そこまで思い出して気が付いた。私が分倍河原に恋心を抱いたのはその眼差しが同じように私にも向けられていることに気が付いた瞬間だった、と。
そしてその恋心の自覚と同時に、それが実ってしまえば仲間のことを一番に想う分倍河原の価値を脅かす存在に自分がなってしまうであろうことに気が付き恐怖した。
私は彼の仲間想いな所に惹かれたのだ。それが他でもない私のせいで損なわれることなどあってはならない。

深呼吸をして分倍河原の方へ向き直る。何事もなかったように繕うのは得意分野だ。入力されたデータを元に出力された素材を彼の身体に合わせて縫い合わせていく。その一針一針に彼が仲間の役に立てるようにと、また無事に戻ってくるようにと祈りを込める。その最中も彼の優しいまなざしが私に注がれているのを感じ、恋心とそれによって引き起こされる恐怖心が綯い交ぜになり、私は何だか泣きたくなった。
必死に平静を装いながらコスチュームを完成させる。コスチュームを身に纏った彼の姿はどんなヒーローよりもカッコよく、誇らしく見えた。そして、それを作ったのが私だと思うと彼と一体になっているような気持ちになり、恐怖心が薄れてきた。今回も無事に自分の心を隠し通し、任務を全うしたのだ。
「次に破けたコスチュームを持って来るのはいつ頃になりますかね?」
「う……もう持ってこないようにする!どうせすぐにだめになるさ!」
「まぁ、いつでも直せるように待っててあげますよ」
私のその返答に安心したように笑って部屋を出ていく。次に来るときは今とは反対に心底申し訳なさそうな顔をして部屋を訪れるのだろうと想像し、今からその時が楽しみになった。

テレビの臨時ニュースで敵連合とヒーローの全面戦争が始まったと聞き、分倍河原は無事だろうかと中継画面に釘付けになって見るが被害地域の映像ばかりで実際の戦いの様子は流れない。ただ祈ることしか出来ない状況に己の無力さを呪うがどうしようもない。居ても立っても居られず、彼がもしコスチュームを破いてしまってもすぐに直してあげられるようにアジトである地下神殿の方へ向かおうと靴を履く。つけっぱなしだったテレビの音声が急に変わったことを不思議に思いながらもドアに手を掛ける。その瞬間だった。
「ただ皆の幸せを守るだけだ!」
幾度となく聞いてきた声に反射的に振り向き、靴を脱ぐことも忘れて画面に追いすがれば背中を刺されて倒れている分倍河原の姿があった。視界がグニャリと歪む。理解が追いつかない。テレビで朗々とヒーロー社会への不満を語る男の話を聞くに分倍河原は死んだらしい。嘘だ。いや、本当のことだろう。だって背中がこんなにも破れて、血が出て……。
考えれば考えるほど彼の死が現実感を帯びて襲い掛かってくる。もし私の気持ちを伝えていれば、自分自身の身を第一に考えて生き延びるために行動してくれただろうか。そんな非現実的な妄想に逃げようとするけれど、テレビから聞こえてきた彼の言葉を思い出し、現実に引き戻される。
”ただ皆の幸せを守るだけだ!”
テレビに映った彼の姿は紛れもなく私の愛した仲間を一番に思いやる姿で、その声色からは仲間のためなら命すらも惜しくないという覚悟が伝わってきた。私が恋心をひた隠しにしてまで望んだ最期を、彼は遂げたのだと自分に言い聞かせる。
それでも、これで良かったとは思えなかった。


問いかけの部屋(トゥワイス)

診断メーカーの台詞より、
「ごめんと、ありがとうと、もう1回ごめんと、それと最後にさようなら」
をお題に書きました。

気がつけば、真っ白な部屋にいた。真ん中にポツンと置かれたパイプ椅子に俺は座っている。
最期に覚えているのは、裂けるような背中の痛みと自らの分身が仲間に駆け寄っている姿だった。それなのに、なぜこんなところにいるのだろうか。
窓一つない立方体の部屋の中で、パイプ椅子と天井に取り付けられたスピーカーが異質さを放っている。何となく、ここはあの世なのだろうなと思った。スピーカーからプチッと小さな音が聞こえ、その後にキーンという高い音が鳴った。
「こちらは終末支援センターです。あなたの死後のサポートを致します」
スピーカーから発せられた無機質な機械音声は、俺の予感を肯定するように、ここが死後の世界だと告げる。全く訳の分からない状況ではあるが、死後の世界はこういうものなのだろうと自らを納得させた。
「死後のサポートってなんだ?」
分からないなりに次に起こることが気になり、スピーカーの言葉に返事をする。そもそも、この機械音声に返事をするだけの機能が搭載されているのだろうか。そんな俺の疑問を払拭するように機械音声は言葉を返した。
「貴方が少しでも後悔なく幸福に死を迎えられるようにサポートします。初めの質問です。消したい記憶はありますか?」
「消したい記憶?」
「はい。辛い思い出や嫌な思い出を消すことで人生が幸福だったと思うことが可能になります。そのような記憶があるのかの確認です。」
「なるほど、それを消して幸せな人生だった思えるようにするってことか。地獄行き決定みたいな人間に対して優しくして何のメリットがあるんだ?」
俺の言葉にスピーカーは沈黙する。答えられないのか、或いは答えをインプットされていないのかは分からないが、俺の疑問に対する答えが得られないことは確かだった。
「どの記憶を消去したいですか?後悔の無いようにじっくりと人生を振り返ってお考えください」
俺の質問に答えないまま、スピーカーは自らの役目を全うするために言葉を放った。その言葉に答えるために俺は口を開く。じっくりと人生を振り返るまでもなく、俺の答えは決まっていた。
「消したい記憶なんてない」
思えば、良いことよりも悪いことの方が多い人生だった。両親は早くに亡くなり、バイク事故で仕事も居場所も失い、犯罪に手を染め、自分達が殺し合うところを目にしてイカれ、落ちに落ちた。
けれど、だからこそ、孤独を知って仲間の有り難さに気付けた。敵連合の皆に出会えた。あの娘に包んでもらえた。落ちに落ちた場所で居場所を見つけた。
そこに居られて、幸せだった。
「分かりました」
「記憶を消さないって選択でも何も言わないんだな」
「私の役目は貴方が少しでも後悔なく幸福に死を迎えることです。貴方の人生は他でもない、貴方自身によって肯定されました。それ以上の答えがありますか?」
「……ないのかもしれないな」
「では、次の質問です。思い残すことはありますか?」
「あるな。あいつらに。ごめんと、ありがとうと、もう1回ごめんと、それと最後にさようならを言えなかったことだ。でも……」
自分自身が最後に見た光景を思い出す。トガちゃんとコンプレスの元に走っていった俺の分身の後ろ姿を。
「でも、いいんだ。きっと、あいつが伝えてくれている。他でもない俺の分身なんだから」
「分かりました。思い残すこともないのですね」
「ああ」
「最後の質問です。あなたは幸せでしたか?」
「ああ!」
俺の声に反応するように白い部屋の壁がガラガラと崩れ、部屋がハリボテであったこと、その壁の向こうが暗闇の世界であったことを知る。役目を終えたスピーカーも落ちてザーザーと意味のない音を鳴らしている。床もパイプ椅子もパラパラと崩れて、塵になる。俺は暗闇の世界に放り出され、自身も闇に溶けることを知った。
「ありがとうな。おかげで後悔なく逝けそうだ」
俺はゆっくりと目を閉じ、意識を手放した。


君のいない春に眠る(トゥワイス)

「たすけてくれてありがとう」そう言って彼女は俺を抱きしめた。冷え切った心があの時と同じぬくもりに、幸福に包まれる。あたたかい。そうか、もう春か。
静かに目を閉じると仲間の蒔いた種が芽吹き、色鮮やかな花々を咲かせ、君がその中心で幸せそうに笑っている。そんな光景が瞼の裏に映った。


美しき幕引きに(コンプレス+トゥワイス)

迫圧紘のお話は
「人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った」で始まり「そうして何事も無かったかのように振舞った」で終わります。

人は本当に悲しいとき、涙が出ないのだと知った。トガちゃんのように怒りに任せて動くことも出来ず、ただトゥワイスが亡くなったという事実だけを反芻していた。あいつが最期に見せた笑顔が脳裏を離れない。
ああ、そうか。
トゥワイスの最期に悲しみを凌駕するほどの羨望を抱いているのか。
‟仲間の為に”という己の信念を身を挺して貫き通した。エンターテイナーなら誰もが憧れる完璧な幕引き。それをあいつは目の前でやってのけたのだ。
俺はあんな風に笑って死ねるだろうか。
いや、あんな風に笑って死ななければならない。
その時が来たら仮面も覆面もすべて取り払って、笑ってやるのだ。
観客に俺の生き様を、俺の夢を、使命を、存在理由を最高の笑顔と共に刻み付けてやるのだ。
ずれた仮面を整えて、確かな覚悟と共に立ち上がる。
そうして何事も無かったかのように振舞った。


運命の傀儡師(ホークス+トゥワイス)

貴方の書く、ホトゥワへのお題
【逃げに徹する】【一番にはなれない】【ほかの何者にも変え難い】

一番になれないのはお互い様。俺は俺の目指す世界が一番大事だし、あなたはあなたの仲間が一番大事だ。けれど、一番にはなれなくても、俺にとってのあなたが、あなたにとっての俺が他の何者にも変えがたい存在であるのも事実で。そして、その事実が迎える結末が穏やかなものでないことは俺だけが知っていた。
否、知っているだけではない。その穏やかでない結末に向けて運命の糸を手繰りよせているのは他でもない俺自身だった。


よく見えない顔 (トゥワイス)

診断メーカーのお題3つ+45分の時間制限(10分オーバー)
・鏡合わせの双子/ご主人様/遺品/裏切り者/ともだち
・「よく見えない顔」を小説化して下さい。
・トゥワイスのお話は「もう会えない」という台詞で始まり「また会えますようにと願うほかないのだ」で終わります。

「もう会えないさ」
 またな、という別れの言葉にそれはそう言葉を返した。
 鏡合わせの双子のようにそっくりだったそれは、見るも無残な泥へと姿を変えた。目の前で広がる遺品を前に俺はただ安堵していた。そいつらは友だちでもあったかもしれないが、きっと俺の一方的な思い込みだろう。でなければ、これほどまでに心が凪いでいるはずがない。俺がご主人様で、そいつらは奴隷。その表現が正しい。そしてそいつらは今日、俺という主人に反抗する裏切り者になった。
 静かな部屋に残された俺は孤独から再びもう一人の自分を作ろうとした。けれども、作るよりも先に脳裏に焼き付いた殺し合いの光景がフラッシュバックし、作ろうとした手を止めた。
 俺が俺達といた時、確かに楽しかった時間はあったはずだ。それなのに、そのイメージが全く湧かなくなっていた。俺を作れば、その俺は即座に俺を殺そうとする。そのイメージだけが脳を支配していた。
 俺は俺を殺したがっている。
 俺自身は死にたくないと思っている。
 なんという矛盾だろうか。その矛盾が真実であると俺は知っていた。
 最後に殺した俺の最期の言葉を思い出す。
「もう会えないさ」
 あいつは、俺がこうなることを知っていたかのように言葉を吐いた。あの時の表情はどんなものだっただろうか。俺が俺自身を作れなくなることに対する諦めの表情だろうか、それとも俺に会わなくて済むという安堵の表情だろうか。それとも、俺自身であって俺でないそれとはもう会えないという死を悟った表情だっただろうか。
地面に散らばったガラス瓶に俺の顔が映っていた。俺の顔はガラス瓶の曲面に歪められ、歪な笑顔を浮かべていた。その顔が自分のもののような気もしたし、分身の顔を表しているようにも感じられた。
 ガラス片を手に取り、自分の顔を映す。角度によって様々な表情に変わる自分自身の顔がどれが一番自分の今の顔に近いのか分からなかった。ガラス瓶によって歪められているのでどれも自分の表情ではないのだろうと結論付け、実際の表情を確認しようと洗面所の鏡の元へと向かった。
 鏡に映った自分の顔を見て驚いた。鏡に映る顔は泣いたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだりとコロコロとその表情を変えていた。普通の顔をしようとしても、鏡はそれを映さない。
 鏡に映っているこれは、本当に自分自身の顔なのだろうか。鏡だと思っているものは本当はガラスで、向かい側に俺の分身が立っているのではないだろうか。そうやって俺を騙して、背中を向けた俺を背後から殺すつもりなのではないだろうか。ガラスの向こうにいる自分を睨みつける。ガラスの向こうにいる自分はそれを馬鹿にするように笑っていた。それが無性に腹立たしく、殺されるよりも先に殺してやらなればならないと思った。


 気が付けば、鏡は割れ、自身の拳からは血が流れていた。目の前にいた分身は姿を消していた。
 良かった。そう安堵し、額に流れる汗を拭った。
 その手に、不気味に吊り上がった頬が触れた。
 まさか、と思い、手で顔に触れて表情を確かめる。何度確認しても、その表情は笑っていた。
 ああ、鏡の中にいたあいつは、俺の中に逃げ込んだのだ。そして、俺を乗っ取らんとその時を伺っているのだ。
 いや、すでに乗っ取られていて、俺自身が本体ではなくなっているのかもしれない。
 最後に殺した分身の言葉が蘇る。あいつはもう会えないさ、と言った。
 こういうことだったのか。
 俺と一体化して、俺自身を乗っ取ることで俺を消す。そうなれば、俺はあいつとはもう二度と会うことはかなわなくなる。乗っ取られてなるものか。裂けて二つになりそうな自分自身の身体と心を抑えながら必死に抵抗する。
 裂けてしまえよ。
 心の中で反響する声を必死で無視する。この声を止めるには再びあいつと対峙して殺す必要がある。あいつを出すために分身を複製すれば、俺はきっと殺される。今はその恐怖に打ち勝つことはできない。
 それでも、俺はあいつとまた会えますようにと願うほかないのだ。


幸福の紙片(トガちゃん)

トガちゃんの小説は「幸せになってください」という台詞で始まり「そのときの手紙はまだ大切にしまってある」で終わります。 

「幸せになれよ!」 

トガはポケットから取り出したビリビリに破れた紙に書かれた文字を見て、笑みを零す。 

そして、分倍河原の仇を討つために走り出した。 

その日は雄英高校の合宿襲撃のための作戦会議の日で、初めての顔合わせの日でもあった。トガヒミコが自分自身がありのままで居られる場所として紹介された敵連合には個性豊かなメンバーが揃っていた。けれども、自分好みのボロボロな人間はいなさそうだった。それどころか、自分と同じ女性もいなさそうだった。そのことに少し落胆するが、新しいお友達を作る機会だと思いなおし、一人ひとりに声を掛けて回ることにした。 

「私はトガです。トガヒミコって言います。あなたのお名前は何て言うのですか?」 

「俺?俺はトゥワイスっていうんだ。よろしくな!仲良くしないぜ!」 

「よろしくしてくれるのか、仲良くしないのか、どっちなのですか?」 

「もちろんよろしくするほうだ。しないほうだ!」 

トゥワイスと名乗った男のコロコロと表情と主張を変えながら話す姿には悪意を感じられず、トガは彼はこういう人なのだろうと理解した。 

「トゥワイスくんの本当のお名前は何て言うのですか?」 

「あれ?俺のこと気になってる感じ?トガちゃんなら大歓迎だ!俺には心に決めた人がいるからダメだぜ!分倍河原仁です!よろしくお願いします!」 

「じゃあ、仁くんですね」 

トガはにっこりと仁くんに笑いかけると、仁くんと呼ばれた男はこくりと頷くと押し黙ってしまった。どうやら照れているようだ。 

トガはそんな分倍河原の様子が面白く、分倍河原にあれやこれやと質問を投げかけた。誕生日から始まり、好きな人のタイプ、好きな花、好きな食べ物に至るまで色々と聞いた。分倍河原はすべての質問に反対のことが入り混じった回答を返し、そして、トガにも同じ質問を投げかけた。 

「なんで、仁くんは敵連合に入ろうと思ったんですか?」 

「義爛に言われたんだ。お前には仲間が必要だってな。いらないぜ!」 

「じゃあ、仁くんと私は仲間ですね」 

トガがそう返すと分倍河原は「そうだな」と言って、トガに笑いかけた。 

「じゃあ、トガちゃんは何で敵連合に入ろうと思ったんだ?」 

「生きにくいからです。ここに入れば、生きにくい世の中を生きやすく変えてくれるって聞きました。私も私らしく生きるのです」 

分倍河原はその言葉に大きく目を見開き、真剣な顔をしてトガを見つめた。トガはその視線に笑顔を返した。 

「俺が、絶対変えてみせるよ。そして一緒に結婚して余生を幸せに暮らそうぜ!」 

「ふふふ。楽しみですねぇ。でも、仁くんはタイプじゃないので、結婚は出来ないです」 

「じゃあ、どんなやつがタイプなんだ?」 

「血が一杯出ていて、ボロボロな姿が似合う人です。最近のドラマで出ていたあの人とか!」 

殺人鬼に狙われる被害者役で出ていた有名人の名前を上げるが、分倍河原は知らない様子で「そっかー」と返事をした。 

「私の手でもっとボロボロに、血まみれにしたいのです。そしたら、もっともっと素敵になると思うのです!」 

トガは恍惚とした笑みを浮かべるとナイフを取り出し、想像上の好きな人にナイフを振り下ろす。肉の裂ける感触、血の温かさ、悲鳴。想像上のそれらがトガの身体を好きで満たしていった。分倍河原はそんなトガの様子を見て、幸せそうだと感じた。 

「トガちゃん!ハッピーバースデー!」 

合宿の襲撃から数日後の招集日はちょうどトガの誕生日だった。招集時間より一時間も早めの時間に来て欲しいと分倍河原に言われ、その時間通りに扉を開けたトガを分倍河原の放ったクラッカーが歓迎する。部屋の中には分倍河原と、トガが好きだと言っていた有名人が椅子に縛られていた。 

「トガちゃん、これ誕生日プレゼント。好きにしていいよ。分身だからある程度のダメージを受けると消えちゃうけど何度でも出せるから」 

「本当にいいのですか?」 

「もちろん!トガちゃんのためだからさ!」 

分倍河原はウインクをするとトガに椅子ごと有名人を差し出す。トガはナイフを取り出して、突き刺した。突き刺した部位から血が噴き出し、トガの顔を赤く染める。トガはその血の温かさ、血に染まっていく好きな人の姿に口を大きく歪ませた。分倍河原は壊れては作り、トガは作られては壊していく。 

その永遠とも思える時間は、ガチャリと音を立てて開けられた扉から入ってきた人物によって終わりを迎えることになる。 

「なんですか。この泥だらけの部屋は……」 

入ってきた黒い影は静かに怒りを露わにした。 

怒らせてはいけない人物を怒らせてしまったことに気付いた二人は慌てて許しを請う。 

「「すぐに片づけます!」」 

「いや~。一時はどうなることかと思ったぜ」 

「黒霧さん凄く怒っていたのです」 

片付けを終えた二人は椅子に腰かけて、休息をとる。 

「誕生日プレゼント、ありがとうございました」 

「本当は手紙も書いたんだけど、上手く書けなくて。上手に書けたぜ!」 

「見せてください」 

分倍河原がポケットから取り出した手紙は書きたい言葉と、その反対の言葉が入り乱れていた。そんな手紙を見せることが躊躇われ、いっそのこと破ってしまおうかと思案する。その時、分倍河原の頭に名案が浮かんだ。一番伝えたい言葉だけを切り取ってしまえばいい。手紙の中から一番伝えたい言葉を探す。そして、その言葉を破り取り、トガに渡した。 

“幸せになれよ!” 

その言葉が嬉しくって、トガはポケットにその手紙を入れた。 

そのときの手紙はまだ大切にしまってある。 


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