夕陽を戴いて道を往く(フリック×オデッサ)

フリックとちょっと大人になった坊ちゃんとオデッサのイヤリングの話。フリック視点です。
Twitterに上げた140字SSの「一心同体」に加筆したものです。


彼女の志はイヤリングと共に一人の少年に託された。
少年を中心に108の星が集う。星を照らすは一つの太陽。
その光は行き先を照らし、優しく周囲を暖め、情熱の炎を燃やし、何よりも眩しい笑顔を向けてくれた。
さあ、ここが正念場だ。太陽の名を冠した剣を掲げる。
剣は青雷を纏い、威嚇するように閃光を放った。
「我が剣オデッサにかけて、
 ここは 通さんぞ!」
たとえどんなにこの身を傷つけようとも、胸に掲げた志には皺ひとつ、染みひとつつけさせはしない。

すべてを終えて、城から出る。
人々が湧いている。ティルたちは戦争の終焉に歓喜していた。
傍らに立つビクトールがその光景に安堵のため息をついた。
「俺たちの役目は終わったな。どうだ、久しぶりに旅にでも出るか」
「それも悪くないな」
夕陽が世界を赤く染め上げる。
優しく、暖かく、懐かしい赤だった。
剣が夕陽を反射する。一瞬の光彩に彼女の微笑みが重なった。

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「フリックさん、ビクトールさん!」
久しぶりに再開した少年はイヤリングの似合う青年へと成長していた。俺たちに向けられた屈託ない笑顔には、あの頃と同じあどけない少年の面影が残っていた。
「イヤリングが似合ういい男になったじゃないか」
そう言って笑いかけるとティルはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「もっと似合ういい男を知っているんですよ」
いうが早いか、ティルは耳につけたイヤリングを外すと俺の耳につけてきた。
「ほら、やっぱり似合う」
イヤリングを付けた俺の顔を見て、ティルは満足げに微笑んだ。ティルの気持ちは嬉しかったが、これはオデッサが意思を託した証だ。俺が持つわけにはいかない。そう思い、イヤリングを外してティルにそっと差し出した。
「これはオデッサがお前に託したものだ。お前が持っていてくれ」
受け取ってくれるだろうという考えとは反対にティルに差し出した手はやんわりと押し返されてしまった。
「心の通じ合った二人は一緒にいないと……。なんてマセすぎですかね?」
そう言ってはにかみながら笑うティルに、どうしたものかと思案する。すると、ティルは頑として受け取らない態度の俺を見て真面目な表情になり、丁寧に言葉を紡ぎだした。
「イヤリングはオデッサさんの生きた証です。前線を去った僕よりもオデッサさんの志を引き継いだフリックさんが持っている方がずっと良いと思うんです。」
「フリックさんがオデッサさんの志を他の人に引き継いでいく限り、皆の胸の中でオデッサさんは生き続けるんです。だから、フリックさんが持っていてください。オデッサさんが願い、僕達の作った世界をオデッサさんに見せて上げてください。」
イヤリングを持つ俺の手をティルは両手で優しく包み込み、真っすぐな目で見つめてきた。その表情に彼女の面影が重なる。その眼差しに、イヤリングが無くとも目の前の青年に託された志が宿り続けることを悟った。
それに、俺は昔からこの目に弱い。強く、優しく、どこまでも真っすぐな目に。
「全く、お前には敵わないな。いつの間にか弁も立つようになって」
ティルは俺の言葉に満足げに微笑んだ。受け取ったイヤリングを耳につける。慣れない感触がくすぐったい。
それに戦っているうちに落とさないか不安になり、イヤリングは小袋に入れて首から下げることにした。
「ありがとうな、ティル。またどこかで会おうぜ」
ティルに手を振り、背を向ける。爽やかな風がマントをはためかせ、小袋を揺らした。
「良かったじゃねえか。似合ってるぜ」
ビクトールが俺を小突きながら満足そうに微笑んだ。心臓の近くで揺れるそれを握りしめると確かな温もりが伝わってきた。
「んじゃ、旅の続きを始めるか。今日からは三人旅だな」
そういってビクトールは空を仰ぐ。
夕陽に照らされた空はあの日と同じ赤色に染まっていた。